育ちが良いといっても皆人間

事件は、今年のはじめ夕刻のラッシュにはまだ早い午後四時半ごろ、地下鉄千代田線の日比谷駅手前で発生した。
「あなた、痴漢してるでしょう!」
 代々木上原発綾瀬行き一○両電車の前から四両目の車両に、突然、するどい女性の声が響き渡った。その女性は痴漢の場を目撃したため、被害者の女子高生と一緒に、犯人の中年男性を駅事務所に突き出してきた。駅からの通報で丸の内署から即座に警官が駆けつけ、その場で東京都迷惑防止条例違反の現行犯として逮捕。
「被害者は都立高校に通う一八歳の女子高生。帰宅途中、座席で眠っていたところ、隣に座った男が女子高生の膝に自分のブレザーをかけ、その下から右手で太ももを撫で回したらしい。警官が駅に到着した時には、男は今にも泣き出しそうな顔で女子高生に何度も謝っていたそうです」(捜査関係者)
 ガラガラの電車内でかくも破廉恥な所業に及んだこの呆れた輩こそ、アメリカの一流紙ワシントン・ポストの東京特派員である東郷茂彦記者(五六)だった。
 「最近は痴漢でも冤罪のケースがあるけれど、今回は本人がハッキリ認めている。女子高生が可愛かったのでついやってしまったと供述してるんですが、驚いたことに、実はこれまでにも九回くらい、電車内で痴漢をしたことがあることも白状したんです。痴漢犯は普通、あくまでもシラを切り通すもので、自分から余罪までゲロしちゃうなんて聞いたことないから、こっちも驚くやら呆れるやら………」
 実際、今年に入ってすでに一回略式起訴されており、二十二日、今回の件も起訴された。
 それにしても、東郷記者といえば、外国メディアの日本人特派員としてはよく知られた名物記者で、しかも、いわゆる華麗なる一族の一員。まず、祖父は日米開戦当時の外務大臣だった東郷茂徳氏。その娘婿である父親は、外務省の事務次官や駐米大使を歴任した東郷文彦氏。そして、東郷記者の双子の弟である和彦氏も、外務省の欧州局長を務め、今年八月からオランダ大使に赴任している。「名門の出に相応しく、兄弟揃って小さい頃から非常に優秀でした。学習院の中等部から日比谷高校に進み、成績は常にトップクラス。弟は東大から外務省に、そして本人は早稲田の政経学部から朝日新聞に入社しました」(知人)その後、ワシントン・ポストに移るわけだが、そんな東郷記者の名を一躍有名にしたのが、目下、新宮がご誕生された雅子さまが皇太子妃に決まったという、平成五年一月のあの大スクープ。当時、日本のメディアは報道自粛協定を結んでいたのだが、そのスクープがキッカケで解除され、以後の大報道に繋がったのだ。
 「英語やフランス語が堪能だった彼は、記者としてもライターとしても優秀でした。それに、とにかく仕事熱心でハードワーカー。私が、『シゲ、ゴーホーム』といくら言っても決して帰ろうとしなかった。それだけに、今回の事件はとても信じられない。何かの間違いとしか思えません」
と信じ難い事件という意見の一方では、こんな声があるのもまた事実。
 「やっぱりな。案の定、またやってしまったか」
 「確かに、彼の記者としての実績・能力は誰もが認めるところです。しかし、彼の昔を知る古株の特派員たちの間では、事件に驚く者は誰もいません。むしろ、皆、妙に納得してしまうんです」
 と言うのは、ある外国メディアの日本人特派員である。
 「何しろ、彼の場合、これが初めてじゃないですからね。あんなワイセツ事件を起こして朝日を辞めたわけだから、古株の人なら誰でも知ってます。あれはもう一種の病気じゃないかと、逆に彼に同情する人もいるくらいですよ」
 知る人ぞ知るその『事件』とは、今から二十五年前の昭和五十一年五月、あろうことか、まっ昼間、国会の中で起きた。
 「見学に来ていた神奈川県の小学生たちが、衆議院本館の階段を一階から三階までのぽる間、後ろから男が近づいてきて、その中の女子児童二人に『かわいいね、何年生?』などと声をかけながらスカートをめくり、お尻をさわったという事件があったんです。その犯人が彼。しかも、二週間ほど前にも同じ場所で同じような『事件があり、これまた彼の犯行だった。いずれも本人が認めましたが、警察沙汰にはなりませんでした」当時、東郷記者は朝日に入社して七年目。名古屋支局で愛知県警詰めキャップも経験し、東京本社に戻って政治部に配属されたばかりだった。
 時あたかも国会ではロッキード疑惑が吹き荒れていた真っ只中ということもあり、三木首相番の敏腕記者として、その活躍が大いに期待されていたまさにその最中のことだった。結果、国会事件の翌々日に依願退職。すでに妻と二人の息子もいたのだが、それにしても、そんな不祥事を抱えてよくぞワシントン・ポストに移れたものだ。
「やはり、親父さんの顔が利いたんでしよう。事件直後、私宛に親父さんから丁寧な詫び状も届きました」
 さる事情通によれば、一回目の事件後、心配した母親が密かに精神科のカウンセリングを受けさせたらしいが、
「そのお母さんが彼を溺愛していてね。彼自身、成績はバツグンなのになぜか試験に弱く、一族の中で彼だけが東大に行けず、かなりコンプレックスを感じていた。それらが原因かどうかは不明だが、ある時期から彼は、ロリコンになってしまったんです」
 これだけ破廉恥ワイセツ行為の、しかも常習犯とあっては、もはやビョーキとしか言いようがあるまい。
 その当人、起訴された現在も、保釈はされずに拘置中。何とも理解に苦しむ名物記者である。